ストーリー

まさに、「必要は発明の母」

コアルーのアイデアは子育ての中から生まれたんですよね?

15年前、2人の乳幼児を育てながら、世の中にこれほど難しい仕事があるのかと感じていました。私は肩こり症で貧血持ちだったので、特に困ったのが外出時のバッグでした。
子育て中は何かと荷物が多いのに、リュックサックもショルダーバッグも身体に負担がかかってつらかった。使いやすくて身体にフィットするバッグはないかと探したのですが、なかなか見つかりませんでした。
だったら自分で何とかしよう、バッグのストラップを持ちやすく工夫しようと思って。そればかり考えていたら、ある朝突然2本のひもを組み合わせるアイデアが降ってきて、「アッ、これじゃん!」と思いました。

発想のもとになったのは?

私は韓国出身なんですが、「たすき」やあやとり、折り紙、風呂敷、手ぬぐいといった日本の古くからの知恵に、日ごろから感心していました。特に、たすきで着物の長い袖を一瞬で束ねる様子や、腰ひも1本で子供をおんぶする姿にビックリして、紐ってシンプルだけど、すごい可能性があると思っていたんです。
韓国にも、ボッチムという背負いひもがあります。日本と韓国の伝統的なモノのなかに、コアルーのヒントがありました。

「コアルー」という名前はどこから?

子供をおんぶして木登りをするコアラとお腹に抱えるカンガルー。つまり、おんぶに抱っこですね。

アイデアを形にするために

コアルーは特許を取得していますが、バッグでは珍しいですよね?

はい。コアルーはバッグ本体のデザインではなく、ベルト(ストラップ)の「構造」として特許を取得しています。
特許については、前職で特許翻訳の仕事をしていた時に知財について独学したことがあって、いつか自分のアイデアをビジネスにしてみたいと思っていました。
ありがたいことに大変誠実で親身になってくださる弁理士さんに出会ったので、さっそく手続きをしました。

権利があれば、ライセンス料収入も?

そうなればいいなと思ったので、まずはメーカーに企画書を書いて送りました。でも、どこも社外からの提案に対してとても閉鎖的でした。まったく相手にしてくれなかったのです。
そんな時に、ネットで検索して「発明学会」を見つけました。ここには同じような悩みを持つ個人発明家がたくさんいました。
バッグデザイナーの友人に試作品を作ってもらい、発明学会の仲間と展示会に出展することになりました。今でも時々学会のイベントに参加して、勉強させていただいています。

イベントでのバイヤーの反応はどうでした?

それが、自分が思っていたよりも高く評価していただいて。有頂天になりました。
そして、「企業間での取引をするなら会社を作るべき」というアドバイスを受けて、起業することにしたのです。
準備も何もない、事実上の「1円起業」。本当に無謀な挑戦でした。
ただ、幸いにも私は「ママ友」に恵まれていたんです。毎日のように井戸端会議をしながらホームページを作り、展示会のディスプレイを手作りしました。

出足好調、しかし…

2010年には、ものづくり大賞(リンク)で優秀賞を受けました。

はい。この受賞がきっかけになってNHKの情報番組で紹介され、最初に作った商品はあっという間に売れました。
調子に乗って大量に製造を開始、その最中に東日本大震災が起きました。

震災の影響は?

その頃のコアルーの主力商品は天然素材の帆布だったのに、震災後は実用的なナイロン素材を求める声が多くて。みなさん、心がサバイバルになっていたんでしょうね。コアルーバッグは急に売れなくなってしまいました。
一方で、「このバッグはいざという時に役立つ」とも言われました。たくさん入って重くても疲れない、両手が自由になるバッグは、災害時にも活躍する可能性があると気づきました。

いく度の紆余曲折を乗り越え

この頃、デパートや東急ハンズでも販売していましたね。

特徴ある商品としてお声かけ頂き、私も売り場に立ちました。
現場でのお客様とのコミュニケーションは、実に有意義で楽しかったです。もちろん「デザインが・・・」「大きさが…」「ポケットが…」など厳しいこともたくさん言われましたが、そのような要望を少しずつ形にしてきて、今のコアルーがあります。

どんな人がコアルーバッグを?

私の想定をはるかに超えて、広く求められているように感じます。
若い世代ではママバッグ、比較的時間に余裕のある世代では旅行や趣味に。男性の愛好者も多く、ゴルフ用や、カメラバッグに使われる方も。
荷物の多い営業職や介護職の方、パソコンを持ち歩く方など、ビジネスのシーンでも好評です。肩こりや足腰の弱い方、怪我で松葉杖をついている方から「助かった」と感謝されることもあって、とてもやりがいを感じています。
以前、目の不自由な方から「コアルーの前抱えは安心で便利」とお聞きして、なるほどと思いました。自分ではそんなことは考えてもいなかったんです。人の役に立てることの嬉しさを感じた瞬間でした。

吉祥寺にお店を

ユーザーの声からは、大きな手ごたえが感じられますね。

そうなんです。でも、たくさんのニーズがあると私は実感しているのに、いざ営業してみると取り扱ってくれるお店は多くありませんでした。特に、「説明に時間がかかる」と言われた時にはがっかりしました。

説明すれば良さはわかってもらえるのに、棚に並んでいるだけではダメ?

はい、「説明商品の壁」なんです。
ネットショップには使い方の動画をあげましたが、やはりそれではよく分からない、実物を見られる常設のお店をという声も多く、地元の吉祥寺にショールームをオープンしました。
業界に疎く、経営者としても青かったのですが、知人の応援と地元の有志の方々のご協力で何とか形にすることができました。遠い所からわざわざ来てくださる方も多いです。

今やテレビショッピングでも。

その頃からライセンス契約に頼らず自社の企画で本格的なモノづくりを目指すようになりました。韓国にいる妹が合流し、二人三脚で奔走しました。
そんな活動が実を結んだのでしょうか、2020年には憧れのテレビショッピングから声がかかりました。採用されるのは難関なのですが、幸い今まで途絶えることなく好評を頂いています。

2020年といえば、世界中で新型コロナが流行しました。

はい。春先には日本でも緊急事態宣言も出されました。世の中みんなステイホームになりましたので、当然、店舗での売れ行きは落ちていきます。
でも、テレビショッピングを通してコアルーの長所を、思う存分お伝えすることができました。

真のユニバーサルデザインへ

だんだんコアルーの良さが広まってきています。やはり5wayの魅力でしょうか。

一つのバッグがマルチに使える、しかも手軽にチェンジできる。今必要な形にすぐ変えられるという機能は、長く使うためには必須でしょう。だって、面倒くさいと結局使わなくなっちゃいますから。
「ずーっとコアルーばかり」「これで無いとだめ」「身体が求めている」などと言われると、作ってよかったと心から嬉しくなります。
特に、ケガをした方や身体が不自由な方にも愛用されているということに、コアルーという機構を世に送り出した身として誇りを感じています。

大変な時に便利だと感じるものは、誰にとっても便利。それってユニバーサルデザインですね。

そうですね。近年は災害も多くなっているので、日常にも災害時にも使える「ボーダレスデザイン」も脚光を浴びています。
災害は家にいる時に起こるとは限りません。万が一出先で何かあったときでも、「いつでも、どんな形でも」のコアルーだったら臨機応変に使えますよね。
さきほど「コアルーのアイデアはある朝降ってきた」と言ったのですが、ユニバーサルデザインや防災を意識するようになってから、「アイデアを授かった」と表現するほうがしっくりくるな、と思うことがあります。とても大きな存在の何かから、世のため人のためにこのアイデアを製品化するという使命を、与えられたような気がしているんです。

100年後に残るコアルーを

コアルーがこれから目指すのは?

持っているだけで心と身体がスーッと楽になって、笑顔になれるバッグをつくりたいです。
根本にあるのは、バッグを持つひとりひとりの大変さを解決したい、という願いです。そうしたら子育ても通勤も、旅行も趣味も、出張や介護だって楽になりますよね。すると、人は笑顔になるでしょう。

現代人の大変な毎日を、コアルーバッグで少しでも楽に、便利に。

はい。そもそもコアルーは、トートでも、ショルダーでも、リュックでもない形のバッグを追求することから生まれたアイデアです。ですから、コアルーがバッグのひとつのカテゴリとして認知されてほしいと思っています。そこまで持っていくのがビジョンであり、私のミッションです。
素人だった私がたくさんの人と出会い、学んでこられたこと、それはやはり奇跡でした。コアルーのキセキは感謝の軌跡でもあります。
その感謝の気持ちをパワーに変え、良い商品を作って世界中の人をコアルーで楽にしてあげたい。
そしていつか、娘や息子が街でコアルーバッグを見かけて「あれはママが作ったものなんだ」と思ってくれたら、最高ですね。